住宅の中には、高齢者の身体機能が低下したら自立した生活が難しく、また、介護者の介護がむずかしいような住宅もあります。できる限り永く自宅で生活を維持するための出発点がバリアフリーについて考えることです。
住宅のバリアフリーの計画で場所ごとに考える内容を簡潔にまとめてみました。実際には、制約や個別の状況による事例が多く一般的な事項がそのまま使えないことが多いですが、バリアフリーに関する一つの参考になれば幸いです。
1.道路から玄関まで
段差をなくして、緩やかなスロープにするのが理想です。スロープを蛇行させると昇降が困難になることが多いので注意します。
スロープにするスペースがない場合には、昇降機を設置することが考えられます。
手摺は、歩行部分に合わせて設置して、手摺の素材は、天候によって手すりが熱く感じることや、冷たく感じることがないように樹脂製のカバーで覆われたものがおすすめです。
床については雨の日でも、滑りにくいものとします。(スロープ部分は特に滑りやすいので注意します。)
2.玄関部分
玄関ドアは、引き戸が理想です。内部についても広め(2mx1.5m程度)が理想で、靴の履き替えのための腰を掛ける場所や、上がり框の近くに手すりを計画します。
3.廊下部分
車いすを使用する場合は、幅80cm以上として、曲がり角がある場合は、さらに広くする必要があります。当初からの計画であれば、100cm以上の幅が理想です。
手すりを設置するためと、壁自体を衝撃に強くするために下地補強をしておきます。必要な場合には、手摺を設置します。
ドアを開けるときのために、ドアの近くに縦手すりがあると使い勝手が良いです。
寝室からトイレまでの通路には、足元灯を計画すると、深夜にまぶしくなく便利です。
4.階段部分
階段段部分には滑り止めを設置しておきます。
手摺については、主に使う人に合わせて高さを決めて設置します。
手摺の始まりと終わりに関しては、水平部分を作るように計画します。
手摺の端部は、内側に曲げて服が引っ掛かりづらいように考慮します。
5.トイレ部分
入り口は、幅を広く(80cm程度)してトイレの横に入り口がある引き戸が理想です。
便器を除いたスペースが、1.5mx1.5m程度あると理想的です。
手摺は、L型手摺を計画します。便器から手摺までの離れは、35cm~38cmくらいで考えます。
リモコンは、手摺から10cm程度距離を置いて設置します。近すぎると、手摺使用時の邪魔となります。
便器の横に50cm程の空間があると、介助がしやすくなります。
6.浴室部分
出入り口は、段差をなくして広い引き戸(80cm以上)が理想です。
洗い場の寸法もできれば、1.5mx1.5mほどのスペースがあると理想的です。UBのサイズでは、1620サイズが理想的となります。
手摺は、洗い場での立ち座りのためと、浴槽に入るとき(利き足から浴槽に入ることを考慮します。)の手すりと、浴槽から立ち上がるときや座るときの手すりを考えます。
浴槽に出入りする際の腰を掛けられるスペースがあると良いです。腰が掛けられる部分のある浴槽も市販されています。浴槽は体が完全に沈みこまない大きさと深さを考慮します。
洗い場の床や浴槽の底は滑りにくいものとします。
手元ストップ付きのシャワーヘッドは、本人が使用するだけでなく、介助者が使用する場合にも、その都度水栓に手を伸ばさなくても良いため有効です。同時に手摺兼用のスライド式のシャワーハンガーを採用すると使い勝手がよくなります。
温度のバリアフリー
高齢者は、急激な気温の変化により血圧の変動が原因と考えられる脳血管障害や心筋梗塞を招く場合があります。
洗面所や浴室温度が低いと血圧が急上昇します。そのあとに浴槽内に入ることにより、急激な血圧低下が起こり虚血性心疾患発作を誘発する原因となり、その結果、入浴中の事故となる場合もあるようです。浴室・洗面所の温度管理のために、断熱や暖房設備を考慮します。
7.各部屋部分
入り口建具は、引き戸として、開口を広くして、動作が重くないものが理想です。取っ手や引手などの位置や形状についても考慮します。
部屋内の家具は、転倒防止の措置を行います。また、家具の配置を変えるだけでも生活しやすくなる場合が多くあります。可能であれば、作り付けの収納として部屋を広く使えるようにしておきます。収納の建具も引き戸を考慮します。
高齢者の場合は、視覚機能が低下するため、段差などが取り除けない場合は目立つ色にする等の考慮をします。
照明については、必要なところが十分に明るくなるように計画します。場所によっては、センサー付きの照明とします。
一部屋に一灯の照明とする場合は、この部屋ならこのくらいのあかるさが通常といわれる照明器具よりも、一つ上のクラスの照明器具を設置することも考慮します。照明器具に調光機能がついているとあかるさを調節しやすく使い勝手がよいです。
8.手摺の高さについて
横手摺の高さ
通常は、腕をまっすぐに下したときの、床からの手首の高さくらい(75cm~80cm)が良いとされていますが、住まいに設置する場合には、そこに住まわれて使う方の使いやすさを最優先して高さを決めていきます。
縦手摺の高さ
縦手摺の取り付け位置は、通常、上端は肩より10cm程度上にくるように設置して、下端は、大転子(大腿骨の上の外側にある突起、股下より少し上部分のあたり)くらいの高さとします。住まいに設置する場合には、使う方の使いやすさを最優先して高さや位置を決めるのは、縦手摺も同じです。
9.平面計画の考え方
生活は、できる限り1階で完結するような平面計画が理想です。寝室とトイレは近くに配置したいです。場合によっては、トイレを部屋内に設置することを考えます。収納スペースを多く作り、部屋の中を片付けやすくすると、つまづくような事故が少なくなります。(ちょっとしたつまづき等での事故が多くあるようです。)トイレが狭い場合には、洗面所ともつなげることも考えの一つです。
コンセントについては、配線が床に出てつまづかないように位置と数を考慮します。
その他設備について
床暖房
高齢者は、内臓の機能が低下するため、血液循環も弱くなり、心臓から遠い手足、特に足先が冷えます。その冷えを改善するのが、床暖房です。床暖房は、床面から輻射暖房で温めますので足先の冷え対策には効果的です。
IHヒーター
IHヒーターは、直火の燃焼がないため、換気量は多くなくてよく、厨房内の湿度もガスより低くなります。また、室内の結露の影響も少なくなります。(60%より高い湿度は、ダニ、カビ、細菌等の繁殖を増やす可能性が高くなります。)